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『私から見る中国』作文コンクール入賞作品抜粋(その四)
2021-07-24 12:01

二等賞(2名)

「イップマン」からみる中国人

池乃 大

 

「身分の違いや貧富の差があっても,人の品格,その尊さに違いはない.人々が互いに尊重しあう仲になることを私は願う」

これは映画「イップマン」の中で,主人公の葉問が語る台詞である.私はこの台詞に,中国人の理想が集約されているように思う.

このイップマン四部作は,詠春拳の達人である葉問の人生を描いた映画だ.イップマン序章では,葉問は中国に侵攻してきた日本軍に立ち向かう.葉問の強さに目を付けた日本軍の大佐は彼に日本兵への武術教育を依頼するが,葉問は虐げられる中国人の誇りのためにこれを拒絶する.そうして葉問は大佐との死闘に勝利し,その雄姿は多くの中国人たちを奮い立たせた.

この序章からは,中国人の,決して屈しない心の強さが感じられる.如何なる理不尽にも信念を曲げない頑固さが,中国人には気質として備わっているのかもしれない.物腰おだやかでもどこか芯の強いのが中国人である.

二作目は葉問が戦禍を逃れて香港へ渡ったところから始まる.香港は当時英国統治下にあり,ここでもまた中国人は虐げられていた.香港武館の有力者である洪は英国警察に賄賂を贈っていたが,これは中国人の安全と秩序を守るための,彼なりの正義であった.しかし英国人ボクサーに中国武術をまるでダンスだと侮辱された洪は怒り,中国人の面子のため彼に異種格闘技戦を挑み,命を落とす.その最後を見た葉問は,洪のため,武術界のため,延いては中国人の尊厳のために立ち上がり,仇討ちを果たす.

洪は序盤,権力という長いものには巻かれる賢明な男であったが,同胞への侮辱に関しては真っ向から立ち向かった.その結果命を落とし,葉問も二の舞になる可能性があったが,それでも勇敢にリングに上がった.私はここに中国人の美学を感じ,美徳を見て取る.一見考え方が柔軟で賢明なようで,面子を重んじ,それが損なわれるような事態になると命がけで立ち向かう,それが中国人であるように思う.

三作目のイップマン継承は,前二作よりももっと身近な,家族に焦点を当てた作りになっている.地上げ屋の米国人によって葉問の息子や彼の通う小学校の子供たちが危険にさらされる.警察が地上げ屋と繋がっており町の治安維持できないため,葉問は町の警護に乗り出す.ここで葉問は「社会は不公平だが道徳の面では人は平等であるべき.我々のことを子供たちが見ている.我々は子供たちの良き手本になるべき」と刑事に訴える.冒頭の台詞をさらに深く掘り下げた,中国人の倫理観と教育観がうかがえる台詞だ.そして物語は地上げ屋との対決を経て,若き詠春拳の同門との継承権を賭けた闘いに至る.

この三作目が前二作と異なる点は,中国人の誇りに勝る概念に焦点が当てられているところだ.若き野心家の同門からいずれの詠春拳が最強かを決する挑戦を受けた葉問は,しかし病気の妻の看病のため,試合を放棄する.そして葉問は臆病者という汚名を受けつつも,黙ってそれに耐える.葉問は,武術家としての誇りよりも家族への愛を優先したのだ.葉問はこれまでの二作で,戦争に抗い,支配に抗った.そしてこの三作目ではテーマはよりミクロになり,彼は身近な人を守るために闘う.副題の「継承」の意味は,最終的に中国人が次世代に伝えたいことは,誇りよりも傍らにいる人への愛であるのだと私は解釈する.

そして完結編.妻の死後,関係が険悪な息子を留学させるために,葉問はガン宣告を受けながらも単身サンフランシスコへ渡り,そこで人種差別に抗うことになる.

完結編ではより限定されたテーマ,父と子について描かれている.余命宣告を受けた彼が息子に残せるもの.物語の最後,息子と和解した葉問は,彼に「大切なのは己に自信を持つこと」だと伝える.

シリーズ全編に共通しているのは,葉問は決して自発的に武力を行使せず,ただ同胞の誇りや隣人を守るためのみに闘うことである.闘いに勝利した葉問の表情はいつも物憂げである.これは彼の脳裏に常に冒頭の台詞があるからである.人々は誰しも互いに尊重しあう仲になれるはずだという思いがありながら,それが実現されることがないまま闘いに身を投じる.その理不尽さに対する何故だという問いが彼の勝利に影を残す.

中国は様々な国と隣接しており,内部にも多数の民族を抱え,その歴史は闘いの歴史であったといえる.「武」という漢字が戈を止めると表されるように,武術の究極の到達点は,争いを避けるための力を獲得することだと思う.葉問は武術を極めるほどに身近な人や同胞が争いに巻き込まれることに悩み,迷う.それでも彼は武術が平和をもたらすことを信じていたのだと思う.中国人は自らの誇りのためには決して屈しない.貧富や身分,人種等を超えた平等を理想とし,傍らの人を守るために闘う,しかし争うことへの疑問を失うことはない.極めて哲学的で人間的な人々であるように思う.

 
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